国内PROJECT | 下水道
老朽化対策と
新たな浸水リスクへの対応
担当プロジェクトマネージャー
T.K.
2016年入社東京支社プランニンググループ
上下水道第2チーム (記事掲載時)
Story of the Project
浸水リスク評価に関する
新しいアプローチ
日本の下水道施設は高度経済成長期以降、都市化の進展による生活環境の変化や水質汚濁に対処するために急速に整備が進みました。そして約50年が経過した現在、老朽化した施設が今後急激に増大していくことが見込まれており、30年後には耐用年数を経過した下水道管きょが総延長の39%に達すると言われています。重要なライフラインである下水道の機能をできるだけ長く維持するために、計画的かつ効率的な老朽化対策の実施が求められています。
一方で、近年局地化・集中化・激甚化する大雨による浸水被害が日本各地で多発しており、今後は気候変動に伴う降雨量増加も懸念されるなど、下水道が持つ浸水対策としての役割が重視されてきています。東京設計事務所では、老朽化対策によって生じる新たな浸水リスクへの対応として、シミュレーションを用いた浸水安全度に対する管きょ更生工法の影響評価と対策方針の検討を、自治体と合同で行いました。
Story of the Project
浸水対策と老朽化対策を
並行して進めるために
下水道は自然流下が基本となることから他の管路施設に比べて埋設深が深くなりやすく、開削工法による工事では交通規制や騒音・振動等による周辺の社会・生活環境への影響が大きくなります。また、様々な埋設物が輻輳する市街地、狭隘な道路や住宅が密集する地域では開削工法のスペースが確保できないことや、他企業の埋設物の移設によって工期が長期化することもあります。そのため、急速に進む管路施設の老朽化への対策としては、地表に影響の少ない非開削工法である「管きょ更生工法」(以下、「管更生」)が用いられるケースが増えてきています。
管更生は管きょの流下能力を概ね維持しつつ、非開削で埋設管をリニューアルすることができる優れた工法ですが、過去に浸水被害が発生したような地域では、管更生の実施によって浸水リスクが高まることは避けねばなりません。これまで、管更生の影響評価は狭い範囲で検討されることはありましたが、管更生を実施した地区全体の浸水リスクの評価はあまり行われていませんでした。
本業務では、管更生の実施による地区全体の流量変化および水位変化に着目し、シミュレーションを用いて流下能力不足等の浸水リスクが高い路線を抽出し、浸水対策と老朽化対策を安全かつ効率的に進めるための方針を検討しました。
Story of the Project
浸水リスクの要因を分析
管更生前後の浸水シミュレーション結果を比較したところ、管更生後に一部地区の浸水リスクが上昇することがわかりました。地形的要因(地表勾配等)や下水道施設の規模や布設状況(管径、勾配、集水面積、既存管きょの能力等)が要因ではないかと仮設を立て分析を行いましたが、いずれも有意な結果が得られず、どのようなメカニズムで浸水リスクが上昇するか不明な状態が続きました。
自治体の担当者と意見交換を重ねながら検討を進めた結果、最終的に水理計算を行うことで流速上昇に起因する“流出量増加”および“損失水頭増加による水位上昇”が要因であることが判明しました。正解に辿り着けた際には、自治体の担当者と一緒に喜びを分かち合うことができたのが印象に残っています。Story of the Project
現地の状況を思い浮かべて
本業務のような計画の仕事は社内での作業が大部分を占めますが、現地の状況を正確に把握することが重要です。例えば浸水対策として新しい管きょの増設を計画したとき、シミュレーションで前提としている現地状況では管きょを通せたとしても、実際に現地を確認するとそのようなスペースがないということがあります。管きょや貯留施設を新設する場合は、施設の規模が実際に現地で施工可能かを十分に検討する必要があり、そのためにも現地調査では地形状況や道路状況、施設状況などの見逃しがないよう入念に確認を行うことを心掛けています。
Story of the Project
浸水対策の今後について
新しい視点での取り組みが評価されて、客先からは是非外部に対して本業務を積極的に発信していってほしいとのお言葉を頂き、これまで様々な場所で発表を行ってきました。社内でも会社を代表する事例として、イタリアとオーストラリアで開催された国際会議(UDM2018 in Italy, ICUD2021 in Australia )で論文を発表する機会を頂きました。
3ヵ年に渡る長期プロジェクトでしたが、現在は東京設計事務所としての業務は一段落し、私たちが検討した方針に沿って実際の対策が現地で進められている状況です。昨今、気候変動の影響による豪雨被害は全国で深刻化しており、今後は国レベルでの浸水対策の検討が必要になります。本業務での経験を活かして、今後は日本の浸水対策におけるガイドラインやマニュアルを作成するような国レベルの最先端の業務に関わっていきたいと考えています。